現在アルバイトとして雇用しているAさんから、「自分で会社を設立したので、給与の振込先を会社の口座にしてもらうことは可能か」という問い合わせがありました。

私の理解としては、給与の場合、Aさん個人の口座にしか振り込めないと思っています。
もしどうしても会社の口座への振り込みを希望される場合は、雇用契約ではなく業務委託契約に切り替え、請求書を受け取り、消費税を含めた金額をお支払いする形になると思っています。

ここで確認したい点があります。

Aさんと弊社は、雇用関係ではなくなるのでしょうか。
その場合、法定労働時間など、労働基準法上の制約はなくなると考えてよいのでしょうか。
それとも、弊社にとっては雇用関係はないけれど労働者扱いになりますか?
例えば、労災などが起きた場合、どのような取り扱いになるのかも気になっています。

まず、Aさんの給与を、会社名義の口座に振り込むことが可能かという点についてですが、結論から申し上げますと、これはできません。労働基準法では、賃金は「労働者本人に直接」支払うことが原則とされており(同法第24条)、この場合の「本人」とはあくまでもAさん個人を指します。そのため、たとえAさんが代表を務める会社であっても、会社名義の口座へ給与を振り込むことは認められません。

ご質問者様のおっしゃるとおり、Aさんとの関係性を「業務委託契約」へと見直し、Aさんから請求書を受け取り、消費税も付加した上で、Aさんの会社名義の口座へ報酬を振り込む、という形にすることは自体は可能です。ただし、実態が従来と変わらず「労働者」としての働き方であるにもかかわらず、形式だけを業務委託契約にすることは推奨できません。

仮に雇用契約から業務委託契約へ変更するのであれば、Aさんは御社の「労働者」ではなくなり、雇用関係も終了することになります。この場合、労働時間や休憩・休日といった労働基準法上の制限はなくなり、御社からの指揮命令も及びません。つまり、業務内容・時間・進め方などを御社側が具体的に指示することはできなくなります。業務の遂行はあくまでAさんの裁量に委ねられることになります。

また、雇用関係が終了するということは、労働者として加入している労働保険(雇用保険・労災保険)、社会保険(健康保険・厚生年金保険)の適用もなくなります(被保険者の資格を喪失することになります)。これにより、例えば業務中に事故が発生したとしても、原則として労災保険による補償は受けられなくなります。

そのため、契約形態の変更にあたっては、実態との整合性をしっかりと確認し、業務の進め方なども含めて慎重に進める必要があります。

なぜ給与は“本人名義の口座”でなければならないのか

給与を本人名義の口座にしか振り込めないというルールは、単なる形式ではなく、賃金支払いのトラブルを防ぐためにも重要な役割を果たしています。
もし法人名義の口座へ振り込んでしまうと、後から本人が「受け取っていない」と主張したときに、思わぬトラブルにつながることがあります。
労働基準法が「本人への直接払い」を求めているのは、こうした問題を防ぐためでもあります。

また、安易に業務委託へ切り替えてしまうと、働き方と契約内容が一致しないまま進んでしまい、企業側に大きなリスクが生じます。
実態が雇用関係であるのに業務委託契約を選ぶと、後に「本当は労働者だった」と判断され、未払い残業代や社会保険の遡及加入を求められる可能性もあります。

給与振込の相談を受けた際は、まず「本人名義にしか振り込めない」という原則を押さえ、さらにその希望の背景や働き方を丁寧に確認することが大切です。
契約形態の変更を検討するなら、実態に即した形かどうかを慎重に見極めることが、企業にとっても本人にとっても安心につながります。

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