労災保険には、仕事中や通勤中に起こった事故や傷病の治療費を、労災保険が病院に直接支払ってくれる「療養の給付」と呼ばれる制度があります。この制度を利用することで、被災した従業員が治療費を自己負担することなく治療を受けられます。適用を受けるためには、事前に労災事故であることを病院に伝え、必要な書類を提出する必要があります。
しかし、申請手続きはやや複雑で、どのように進めれば良いのか迷うこともあるでしょう。
この記事では、治療費を自己負担することなく治療を受けられる療養の給付について、誰でも理解できる申請の流れをステップごとに詳しく解説します。

労災保険とは?まずは基本を押さえよう

労災保険とは、労働者災害補償保険の略で、仕事中や通勤中に発生した事故や傷病に対して補償を行う制度です。従業員であれば、パートタイマーやアルバイトであっても対象になります。具体的には、仕事中の事故、通勤途中の怪我、業務上の過重労働による疾病などが労災の対象です。

「療養の給付」の申請に必要な書類

仕事中や通勤中に起きた事故や傷病の治療を受ける際の治療費の申請方法には大きく2つの種類があります。それが「療養の給付」「療養の費用の支給」です。どちらも治療費をカバーするものですが、労災保険では、労災指定病院を受診し、療養の給付を受けることが基本です。

※労災指定病院はこちらのURLから検索することが可能です。
<労災保険指定医療機関検索|厚生労働省>
https://rousai-kensaku.mhlw.go.jp/

近くに労災指定病院がないなど、やむを得ない理由で労災指定病院以外で治療を受けた場合に、一時的に立て替えた治療費を後から請求する「療養の費用の支給」は例外的な措置です(療養の費用の支給については、また別の機会に詳しくご説明いたします)。
ここでは、原則的な治療費の申請方法である療養の給付を受けるケースに絞って必要な書類を解説します。

申請に必要な書類

療養の給付を申請する際に必要な書類は次の通りです。

  • 療養補償給付たる療養の給付請求書(様式5号)
    これは、従業員が労災指定病院で療養を受ける際に提出する書類です。書類の内容には、労働保険番号、従業員の氏名や住所、事故や傷病の発生状況などが記載され、会社の証明も必要となります。

「療養補償給付たる療養の給付請求書(様式5号)」を労災指定病院に提出することで、治療費は労災保険から労災指定病院に直接支払われるため、従業員が窓口で費用を負担することはなくなります。そのため、治療を受ける際は、「労災事故であること」を病院の窓口でしっかりと伝えておくことが重要です。後ほど詳しく説明しますが、ここで労災事故であることを伝えずに健康保険証を使用してしまうと、後で手続きが複雑になってしまうため、注意が必要です。

「療養の給付」申請の具体的な流れ【3ステップで解説】

ここでは、療養の給付について、申請の具体的な流れを、簡単な3つのステップで説明します。

1. 病院での治療

まずは、被災者の治療が最優先です。最寄りの労災指定病院を利用して治療を受けます。傷病の原因が労災事故である場合は、従業員が治療費を負担することはありません。治療を受ける際には、必ず労災事故であることを病院に伝えましょう。

2. 事故報告

次に、会社に事故の報告を行いましょう。報告が遅れると、申請手続きに支障が出る可能性があるため、迅速な対応が大切です。

3. 労災申請の書類準備

「療養補償給付たる療養の給付請求書(様式5号)」を記入し、会社の証明を受けます。
「療養補償給付たる療養の給付請求書(様式5号)」は、以下の2つの方法で入手できます。1つ目は労働基準監督署での受け取り、2つ目は厚生労働省のホームページからのダウンロードです。ホームページには、印刷後に必要事項を手書きで記入する形式と、Adobe Acrobat Reader DC上で必要事項を入力してから印刷する形式の2種類が用意されています。Adobe上で入力してから印刷する方が手間がかからないためおすすめですが、ご自身に合った方法をお選びください。
また、労災の療養給付を申請する場合は、原則として医師の診断書は不要です。書類の準備が整ったら、速やかに労災指定病院に提出しましょう。

この流れに沿って、労災申請を進めれば、スムーズに療養の給付を受けることができ、安心して治療に専念することが可能です。

「療養の給付」申請の注意点とよくある質問

療養の給付の申請にはいくつかの注意点があります。注意点を押さえて申請しましょう

  • 申請の期限:申請は、事故が発生してから2年以内に行う必要があります。期間を過ぎると、補償を受け取る権利が失われるため、早めに対応することが重要です。
  • 健康保険証は使わない:最も重要な注意点は、健康保険証を使わないことです。普段使用している健康保険証は労災保険と併用できません。病院で診察を受ける際には、必ず労災保険を利用することを伝えましょう。もし、誤って健康保険証を使用してしまうと、後で労災保険に切り替える手続きが必要となり、その際には健康保険で支払われた治療費を返金し、改めて労災保険を申請する必要があります。余計な手間が増えないよう、最初から労災保険を使うと伝えることが重要です。

まとめ

この記事をお読みいただくことで、まずは療養の給付の申請手順や注意点を理解し、適切な準備が整うことで、申請がスムーズに進む一助となれば幸いです。
当事務所では、労災保険の申請をはじめ、各種手続きや社会保険に関するご相談を幅広く承っております。労務に関する不安やお困りごとがございましたら、ぜひお気軽にご相談ください。皆さまが安心して働ける環境づくりをサポートいたします。

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