
前回の記事では、新しい処遇改善加算制度の大枠や、事業所が取り組むべきポイントについて解説しました。
今回は、その中でも多くの事業所からご相談をいただく「キャリアパス要件」 について、取組みを進める上での基本的な認識を確認していきたいと思います。
処遇改善加算の算定にはキャリアパス要件の整備が欠かせませんが、せっかく制度を構築するなら、単なる“算定のための形づくり”ではなく、人材育成やサービス品質向上にもつなげていただきたいと思います。
キャリアパスを整備する目的と効果
処遇改善加算は「賃金改善」だけを目的とした制度ではありません。
国が制度に“キャリアパス要件”を置いているのは、職員のキャリア形成支援を通じて、現場の能力向上や働きがいを高めることにあります。
キャリアパス要件は、採用・育成・配置・評価・報酬…と、いわゆる人事制度の全体像に広く関係しています。
つまり、キャリアパスを整備することは、単に「加算を取れる仕組みを整える」ことではなく
- 組織の理念や方針に沿った“求める人材像”を明確にする
- 職員が安心して働き、成長できる基盤をつくる
- 組織の運営方針に一貫性を持たせる
といった、経営そのものの強化につながる取り組みでもあります。
現場の生産性やサービスの質を高めるうえでも、人事制度の整備は避けて通れません。
「制度整備=加算算定のため」と捉えるだけでは非常にもったいないのです。
キャリアパスは人材確保・定着を促す“強力な武器”
厚生労働省の事例集の中にも、キャリアパス整備をきっかけに採用数や職員定着率が増加したケースが紹介されています。
初任者 → 中堅 → 管理者へと段階的に成長できる仕組みが示され、研修制度・評価制度がそれに連動して整備されていたため、求職者にとって「将来が見える」「スキルを伸ばせる」魅力的な職場として認識されたのです。
組織のビジョンを反映したキャリアパスを整備すると
- 職員の役割や成長段階が明確になる
- 昇給や昇格の根拠が説明できる
- この先どのように成長していけるのかを理解し、納得して働き続けられる
といった効果が期待でき、結果として 採用力の強化・定着率の向上 につながります。
また、制度整備には一定のコストも必要ですが、長い目で見れば採用や教育にかかるムダな費用を削減し、組織の収支改善にも大きく寄与します。
キャリアパスは「良い人材に辞めずに働いてもらう」ための、極めて重要な組織投資といえるのではないでしょうか。
キャリアパスはサービスの質向上にも直結する
処遇改善加算の目的は、利用者へのサービスの質向上にもあります。
実際、厚生労働省の事例集では、研修制度・評価制度をキャリアパスに沿って整備し、職員の技術向上とモチベーション改善に成功した事例も紹介されています。
例えば、職員に対して定期的なケア技術やコミュニケーションスキルの研修を行い、その後
→ 取得したスキルを評価
→ 昇給・役割付与につながる
→ モチベーションが上がる
→ ケアの質が向上する
→ 利用者や家族からの評価が高まり、利用者増につながる
といった、非常に良い循環が生まれた事例が報告されています。
福祉・介護の仕事は「人によるサービス」である以上、職員の成長がサービスの質に直結する仕事です。
キャリアパスを整備することは、利用者満足度、地域からの評価、さらには経営の安定性にも影響してきます。
キャリアパス構築の具体的ポイント
以上の内容を踏まえると、キャリアパス構築のポイントは次のとおりです。
① 組織の方向性と人材像に沿った仕組みにする
まずは「どんな組織にしたいか」「どんな人材に育ってほしいか」を明確にすることが出発点です。
ビジョンが曖昧なまま制度だけ整えると、現場に浸透しません。
経験・資格・働く動機や目的の多様性にも配慮し、幅広い職員が成長できる仕組みを意識しましょう。
② 各制度の一貫性を保つ
人事制度は、採用・育成・配置・評価・報酬のすべてが互いに連動して成り立っています。
例えば、キャリアパス要件Ⅰの任用要件を設定する場合には、等級ごとに必要となる知識や技術、資格を等級制度に定め、その内容が研修制度や評価制度とも連動するように設計することで、制度全体の一貫性が保たれていきます。
③ “将来の見通し”を職員に示す
キャリアの道筋を明示することで、職員は「自分がどのように成長できるのか」イメージしやすくなります。その結果、将来への不安が軽減され、安心感を持って働けるようになります。
キャリアパス整備は、加算以上の価値がある
このように、処遇改善加算で求められる「キャリアパス要件」は、単なる加算の算定条件にとどまらず、組織づくりの中核となるものです。
しかし
「どこから手をつけるべきか分からない」
「要件を満たす形にしつつ、現場で運用できる制度を作りたい」
といったご相談が非常に多い分野でもあります。
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