
令和6年度で一本化された新しい処遇改善加算制度(詳しくはこちら)。
これまでの「旧3加算(処遇改善・特定・ベースアップ)」に比べると制度自体は整理・簡略化されましたが、要件をきちんと満たしていなければ算定できない点は変わりません。
ここでは、今のうちに取り組んでおくべき4つの準備ポイントを解説します。
(1)任用要件・賃金体系の整備と研修計画との連携(キャリアパス要件Ⅰ・Ⅱ)
旧3加算では、キャリアパス要件Ⅱ(研修の実施)のみ満たし、処遇改善加算Ⅲを算定することで、特定加算とベースアップ加算の算定が可能でした。
しかし新加算制度では、すべての区分で任用要件と賃金体系の整備が必須となります。
これまでそれらを整備していなかった事業所は、整備を行わない限り、加算自体を算定できなくなります。
また、任用要件は、職員が自分のキャリアを見通せるように、研修計画と連携して成長ステップを可視化することが重要です。
単なる制度整備ではなく、職員育成の仕組みとして機能させることが、今後の加算維持には欠かせません。

(出典:厚生労働省 資料「「処遇改善加算」の制度が一本化」)
(2)昇給制度の整備(キャリアパス要件Ⅲ)
旧3加算時代は、昇給制度が整っていなくても処遇改善加算ⅡまたはⅢの算定が可能でした。
しかし新加算では、昇給制度がない事業所は区分Ⅳ(最下位区分)にしか該当しない仕組みです。
つまり、明確な昇給基準・ルールを整えていないと、受け取れる加算率が下がってしまいます。
たとえば、令和6年3月時点で旧処遇改善加算Ⅱ・特定加算Ⅰ・ベースアップ加算を取得していた訪問介護事業所が、新加算Ⅴ(2)(20.8%)へ経過的に移行した場合でも、昇給制度を整備していなければ令和7年4月から新加算Ⅳ(14.5%)へ減額。
仮に月500万円の報酬であれば、結果として6.3%(315,000円/月)の減収となります。
「昇給制度」と聞くと難しく感じるかもしれませんが、要は「どのような評価基準でどの程度昇給するか」を明文化すれば良いのです。
ただし、昇給は職員のお給料だけでなく、事業所の運営にも大きな影響を与えるため、社労士などの専門家の支援を受けながら進めることが現実的です。

(出典:厚生労働省 資料「旧3加算の算定状況に応じた新加算Ⅰ~Ⅳの算定要件(早見表)」)
(3)月例給での賃金改善(月額賃金改善要件)
従来の処遇改善加算と特定加算では、多くの事業所で受給した加算を賞与や一時金としてまとめて支給する運用をしていました。
理由としては、サービス提供実績によって加算額が変動するため、もし実績が想定よりも減り受給額が不足した場合に、事業者が自己負担で賃金改善を行わなければならない事態を避けるためです。
しかし新加算では、「新加算Ⅳの加算額の1/2以上を月例給での賃金改善に充てること」が義務化されます。
つまり、ボーナス中心ではなく、毎月の給与での改善を基本とする制度へとシフトします。
この要件は令和7年度から本格適用されます。
今後は賞与調整ではなく、給与計算の中で月例的に配分を行う運用設計が求められます。
給与体系や支給ルールの見直しを行う際は、早めに社労士や配分計画まで想定した給与計算代行を行える専門家へ相談するのが安心です。
(4)新たな職場環境改善の取組み(職場環境等要件)
新加算では、すべての区分で職場環境等要件に定められた取組み項目が増えます。
特に「生産性向上」に関する取組みが増え、これまで以上に実践的な改善が求められます。
そのため、事業所としては、どの取組みを重点的に進めるかを早めに見極め、早めに準備を始めることが重要です。

(出典:厚生労働省 資料「処遇改善に関する加算の職場環境等要件(令和6年度まで)」)
最悪の場合は不正受給とみなされ、加算返還のリスクも
令和7年度以降の処遇改善加算は、単なる申請手続きではなく、人事制度・給与体系・職場環境をトータルで整備することが求められます。
つまり、制度を「書類上だけ整えて終わり」にするのではなく、職員育成の仕組みとして機能させることが重要です。
「うちは大丈夫」と思っていても、実態ある体制整備を終えていないと、加算を失うだけでなく、最悪の場合は不正受給とみなされ、これまで受給した加算の返還を求められるリスクもあります。
加算を確実に取得し、職員の処遇を継続的に向上させていくためには、必要に応じて専門家の力も活用しながら、早めに体制整備を進めていくことが何より重要です。
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